カクテル飲みなら、一度は人工製氷機を発明したというカール・フォン・リンデ博士のことを聞いたことがあるでしょう。
なるほど彼のおかげで近年のカクテルが登場しえたのは本当のことであり、カクテルという言葉がすでに18世紀のレシピ集に見えることから「カクテル=酒と何かを混ぜ、冷やし、カクテルグラスと呼ばれるグラスに入れて供するショート・ドリンクス」という狭い定義も、もっとも古い(そしてしばしばもっとも権威のある)定義ではないとわかります。
というのも、リンデの製氷機は19世紀も末に近い頃、日本では明治維新の真っ最中であり、リンデのいたドイツでは普仏戦争も終わり、ドイツが帝国となって三帝同盟(独・墺・露)なるものが締結された頃に発明されたからです。
もっとも古いカクテルは数千年の昔に遡りますが、近年の冷たいカクテルの歴史というのはせいぜい100年と少しというところなのです。
それはさておき、カクテルをうまく飲むために氷の果たす役割は少なくありません。特に、アルコール度数の高いカクテルをスイスイ飲むには不可欠のアイテムと言ってよいでしょう。
日本のカクテルブックには、フローズン・スタイルのカクテル以外で氷を材料に挙げているものはまず見当たりませんが、シェイクの際にはふつう10ミリリットルくらいの氷が溶けるというのがこの世界での常識、そして、10ミリリットルと言えばちょっとした風味付けに入れるリキュール類などと大差ない分量ですから、氷は、カクテルの重要な副材料であると言えます。
つまり、どうせシェイク(あるいはステア)した後は捨てるのだからと、不味い氷を使えば、それは如実にカクテルの味となって表れてくる、と。